∫キャンディーケーキは雪の中∫

その人の傘に模様なんてない。


真っ白で透明な

傘を差して歩いていた。

「ごめん、杏奈ちゃん。」


言葉と共に傘の持ち手を押しつけられる。


「それ、差して…先に帰ってて。」

「え…？」

「ごめん!」



雨の中、走っていく彼の白い背中を

引き止める術は私にはなくて。



ただ、彼の視線の先を辿れば

雨に濡れながら立っているその人と

一瞬だけ、目が合った気がした。



「あ…。」




目の前の水溜まりに、ポツリと取り残された小さな箱。



私が手に握り締めていた

黄色いリボンの箱と同じの。




きっと、先輩が走り出したときに
コートのポケットから落ちたんだ。





震える指でそれを拾いあげる。


濡れた指先が触れたのは、

薄い黄色のメッセージカード。







見るつもりじゃ、なかった。


でも濡れてしまったその紙が、
中に書かれた文字を映し出してしまったから。





"Dear "









あぁ、そうか。

…あなたの心には、いつもあの人がいる。







私の好きな色は、











水香さんの好きな色なんだね―。