忍者ブログ
私はあなたの止まり木でありたい。  どんなに強い鳥でも、羽ばたき続ければ疲れてしまうから。
[192]  [191]  [190]  [189]  [188]  [187]  [186]  [185]  [184]  [183]  [182
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。



大好きだよ、水香。

許せないのは、愛しているから。





『兄さん…。』

電話越しの弟の声は、震えていた。

「藤也?」


『僕は…』


次に藤也が言った言葉に、俺は自分の耳を疑って。



「水香ちゃんが…?」



その時はただ純粋に、彼女が心配だった。


空港からタクシーに飛び乗って病院に向かいながら、

俺はひたすら祈っていたんだ。



―彼女が無事であればいい、と。





「兄さん!」

「藤也…」


息を切らして駆け込んだ病院。

廊下で俺は、初めて弟の涙を見た。


「水香ちゃんは…?」


藤也は黙って首を振る。



「目が、覚めないんだ。」



弱々しい声でそう言ったあと、藤也はその場に座り込んだ。



「…兄さん、」



髪に隠れた弟の表情は見えない。

でも、その声だけははっきりと聞こえた。


"もし、このまま水香が死んだらさ、"







― 僕 モ 、死 ヌ 。







「ふざけるな!」


静かな雪の夕暮れ、薄暗い病棟の廊下に、
俺の叫びだけが木霊した。


「どうしてお前が…」


「僕なんだよ、兄さん。」


胸倉を掴んで壁に押し付けた。

鈍い音と共に、俺を見上げた藤也は泣いてなんかいない。



「水香を突き落としたのは、僕なんだ…。」




その目はどこか遠くを見つめて、

何故か弟は笑っていた。




藤也を突き飛ばして、「面会謝絶」と書かれた扉を力任せに引く。


真っ白な個室のベッドに横たわる君を

今なら枕元の果物ナイフで刺せる気がした。




「やめろよ、兄さん!」




でも、まるで死んでいるように眠っている君を見たとき


俺は初めて、


君を愛しいと思った。






君は紗香だった。

踊れなくなった紗香。






藤也を傷付ける水香が憎い。

でも俺は、踊れない紗香が愛しいから。





「大丈夫だよ、藤也。」





自分の口許が緩むのを押さえきれない。


「…お前のせいじゃない。」




死ぬかもしれないね、水香は。


「…それなら、それでいいよ。」


俺の言葉の意味を取り損ねて、

訝しげに藤也が俺を見た。






踊れない紗香には死んで欲しくないけど、


でも


藤也、お前が傷付かないですむなら、それでいいよ。







PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:

カレンダー
03 2025/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30
フリーエリア
最新CM
[03/05 gregory]
[01/20 ぱど]
[01/19 あげたまご]
[01/18 あげたまご]
[01/14 さぁゃ]
最新TB
プロフィール
HN:
咲遊
性別:
女性
職業:
学生
自己紹介:

いますぐ引き返したほうがきっとあなたのため。


私の夢の世界


歪んでたり 痛かったり。



気分を害されても
責任は負えませんのであしからず。




ちなみに、
このブログ内の文章の

無断二次転載は禁止

です。(ないと思うけど)





それではどうぞ ごゆっくり。





バーコード
ブログ内検索
カウンター
カウンター




photo by MIZUTAMA
eternity labyrinth
忍者ブログ┼[PR]