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私はあなたの止まり木でありたい。  どんなに強い鳥でも、羽ばたき続ければ疲れてしまうから。
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明るく色付いた東の空。

「意外と体力あるんだねぇ。」

感心したような声の主を睨む気力もなく、
そこにあったベンチに座り込んだ。

「でも気持ちいいでしょ、冬の朝のランニング。」


隣で伸びなんかしている彼の笑顔を

海の向こうから届く黄色い日の光が照らしている。



「あのさ、水香、」



強い風にジャージが音を立てる。

その音が、彼の言葉を遮ってくれればいいのにと思った。



「君には言おうと思ってたんだけど、」



聞きたくない。



「帰ってくるんだ。」



聞かせないで。

あなたの口から、その名前を。



「紗香が。」





冷たい手で、心臓を鷲掴みにされた気がした。

じわりじわりと、胸から血液が氷ついていく。


それに反して耳の奥では、強く強く鼓動が鳴り響いていて。





「そっか。」

クス、と笑みが零れる。


冷たい血液をたぎらせたまま
唇は驚くほど綺麗な笑みを作っていた。





「水香。」





名を呼ばれて顔を上げる。


こちらを見る彼と目が合っても
もうどうでも良くなった。





紗香、って。

その名前を口にする時みたいに

私を呼んではくれなかったね。






「そっくりだね。」






―誰に?






「あれ?」






揶揄するように彼は笑った。






「笑えてないよ、水香。」




伸ばされた手を振り払うように立ち上がった。


笑えるわけないじゃない。


全てを見透かしてるような微笑みの前では

自分がなんだか卑しく思えた。

愚かで、ちっぽけで、惨めな子供。




「逃げるのか。」




踵をかえして、一歩。

ぐさりと冷たい声が背に刺さった。


その場に縫い付けられたように動けない。



「知ってるよ、俺は。」




死刑宣告のように、その言葉が首に絡みついた。






―かわいそうな、クララさん。



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HN:
咲遊
性別:
女性
職業:
学生
自己紹介:

いますぐ引き返したほうがきっとあなたのため。


私の夢の世界


歪んでたり 痛かったり。



気分を害されても
責任は負えませんのであしからず。




ちなみに、
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無断二次転載は禁止

です。(ないと思うけど)





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