∫キャンディーケーキは雪の中∫

「来ないで!」

鍵をかけようと扉に走り寄る。

それよりも早くドアノブが回された。




―怖い。




「…い、や…」



精一杯、押し開かれようとする扉を押さえる。



「帰って!」





―怖い。






ギギ、と嫌な音を立てて

部屋に差し込む光の量は増えていく。


「やめて…」




―それ以上踏み込まないで




「もう…」




―壊れるから、全部。






扉の隙間から、彼の冷たい目に射竦められたとき


体中から力が抜けていくのを感じた。



力が緩まったその一瞬に、思い切り彼がドアを蹴り開ける。




「もう、壊れてるんだよ、水香。」




ドアに突き飛ばされた形で、

床に力なく座り込んでいる私の腕を
容赦なく掴まれ立たされて。


「来い。」



引き摺るように連れ出される。






「柾貴…！」



玄関先で、奥から走り出てきた彼女が
咎めるように彼を呼んだ。



「何してるの…。水香、嫌がってるじゃない!」



庇うように私を抱き締めようとする彼女の腕に縋ろうとして

しかし気付いた時には
強く腕を引かれて、彼の腕の中にいた。



「警察、呼ぶわよ。」

「好きにすればいいよ。…警察がわざわざ、痴話喧嘩なんかに介入するなんて思わないけどね。」



車の後部座席に、まるで逮捕された罪人のように投げ込まれて

アクセルを踏み続ける彼とミラー越しに目が合ったとき




―逃げられない。




そう、思った。