∫美しいあなたは時に残酷∫

吐きそうなほど甘い

シュガーパイを焼いて



あなたを待っているわ!

古ぼけた掛け時計。

振り子が一際大きく揺れる。



あなたからもらった黄金の櫛を

揺らめく燈火に翳して







いちど。







ぬばたまの黒髪 さらりと広がる


オレンジ色の鏡の前で


わたしはあなたを待っている。







冷えきった手で 櫛を持ち

唇咬んで






もういちど







はやく はやく そばにきて

その鐘の音が鳴りやまるまでに



シンデレラの魔法は解け

泡沫の夢は過ぎ去ってしまうから。









三度目の櫛が通り抜けた。


同時に十二度目の鐘が響き終わる。





夢は終わり、





壁を照らすジャック・オー・ランターンが
虚しくわたしに微笑みかける。

切なげな瞳を濡らした
憐れな女がわたしを見つめかえす。



白い大理石に張られた

冷たい冷たい水の中。



わたしはあなたの微笑みを見たの。



「振り向いてはいけない、決して。」



後ろからわたしを抱き締めるこの腕

わたしを呼ぶ優しい声




「HAPPY HALLOWEEN,」




あなたの温もりは確かにそこにあるのに

どうして私の顔は

こんなに悲しみに歪んでいるのでしょう。




「振り向いてはいけない。」




絞り出すような声で  あなたは繰り返す。








「だって僕は―。」









その先の言葉が聞きたくないのです。

それはきっと

わたしを傷付けるものだから。





あなたの言葉を遮るように、

わたしは勢いよく振り向きました。





あなたの温もりも 優しさも消えて、



そこにあったのは

永遠の鏡の世界。







黒い喪服を着た女がこちらを見つめていました。