∫キャンディーケーキは雪の中∫

小さな音を立てて色鉛筆を置いて、
大きく上に伸びをする。

体中の緊張が
冷たい空気に吸い上げられていくようで。




書き終えた50枚の
鮮やかなインクで彩られたクリスマスカードに重なって、

明日の教会学校で楽しそうにはしゃぐ
子供たちの姿が目に浮かぶ。





ふと見れば、サイドテーブルに置いてあった携帯が

チカリと紫色の光を放ち、
彼から着信があったことを告げていた。




『水香？』

着信履歴からかけなおせば、
3コールを鳴らすまでに彼の声が聞こえた。


「ごめん、クリスマスカード作ってて。」

『あぁ、僕もさっきまでやってたから気にしないで。』


この時期は毎年大変だよね、そう二人で笑って。


「用件は明日の日程のこと？」

『うん、明日…11時に迎えに行くよ。』




2年前までは、

教会で待ち合わせだったのにね。





「わかった、待ってる。」

『うん。じゃあ、おやすみ。』


何となく、まだもう少し彼の声を聞いていたくて。



「藤也。」

『どうかした？』

「サンタさん、来た？」



電話口の向こうでクスクス笑う声が なんだか切なくて。



『そういう水香こそ、サンタさん来た？』




届いたのはクリスマスカード。

あの人からの。







いたたまれなくなって泣きたくなって

思わず彼との電話を切った。



ツー ツーと無機質に響く機械音が空しくて

いつの間にか透明な雫が頬を濡らす。






「…ごめん。」







あなたのせいじゃないんだよ

って。


あなたは悪くないんだよ

って。





言いたかっただけなのに。








窓の外には歪んだ三日月。



あの日は確か

月のない夜だったっけ。