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私はあなたの止まり木でありたい。  どんなに強い鳥でも、羽ばたき続ければ疲れてしまうから。
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「みーちゃん。」

キャットフードを持って家を出る。

冷たい風に身を震わせながら名前を呼んでも、
鈴の音と共に現れるはずの黒猫の姿は見えない。


「…いないの?」


マフラーを首に巻きなおして
ガレージから川沿いの道に出れば


イルミネーションの光はもう消えて、

聖夜もいよいよ終わろうとしていた。




チリン、と鈴が鳴る。
それと共に小さな鳴き声が聞こえた気がして。

そちらの方に走り出せば、案の定黒猫はそこにいた。



―思いがけない人物の腕に抱かれて。



「寒そうだね、きみ。…ふふ、鈴がついてるってことは、どこかから家出したの?」

そこは教会のある曲がり角。

「…先、輩?」

笑顔で猫に語りかけていた藤也が顔を上げる。

「あぁ…。」

弱々しく、頬をつりあげるように笑って。

「…この猫、君の?」

手に握っていたキャットフードに気付いたのだろう。

「教会に忘れ物、しちゃってさ。取りに来たら…たまたまこの子がいたから。」

軽く猫の頭を撫でて、

また藤也は笑う。


「先輩…泣いてる…「あ、そうだ。バレエ…上手くいった?」


言いかけた言葉は、

小さくもはっきりした藤也の言葉で遮られた。


「先輩…「上手くいった?」


縋るように、祈るように
藤也が自分を見つめている。

「…はい。」

「良かった。」


ふふ、と笑うその表情から真意は汲み取れない。


「見に行ければよかったんだけどね、教会があるから…」


―嘘。

だってあなたは
二年前までスタジオに来てた。



そう。

水香さんがバレエを突然やめるまで、


あなたは毎年、バレエスタジオのクリスマス祝会に来てたんだから。






「…嘘ですよね、先輩。」



藤也と目を合わせる勇気はなかった。

「…え?」

ただ、顔を上げてこちらを見る藤也の表情が
一気に鋭くなったことだけは確かで。


「バレエをやめた理由、私に教えてくれないんです。…水香さん。」



チリン、と猫の鈴が鳴る。



「夢、だったのにな。
…水香さんと、一緒の舞台に立つの。」




ふと、藤也が目を細め
何も言わずに目を伏せた。



「…僕のね、せいなんだよ。」



カツリ、と
靴音が深夜の通りに響く。




「水香がバレエをやめたのも、君が水香とバレエを踊れなくなったのも、」




―全部全部 僕のせいだよ。



振り向いた彼はやっぱり笑っていて

心がすう、と寒くなった。






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プロフィール
HN:
咲遊
性別:
女性
職業:
学生
自己紹介:

いますぐ引き返したほうがきっとあなたのため。


私の夢の世界


歪んでたり 痛かったり。



気分を害されても
責任は負えませんのであしからず。




ちなみに、
このブログ内の文章の

無断二次転載は禁止

です。(ないと思うけど)





それではどうぞ ごゆっくり。





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