∫キャンディーケーキは雪の中∫

クリスマス祝会が終わり

子供たちの笑い声で満ちていたのが嘘のように

静まり返った夕方の礼拝堂。


真っ白なその壁を

差し込んだ陽がポインセチアの赤と共に彩っている。





今日はありがとう、そう言おうとして

その扉を開けた先。



「…ごめん。」



聞こえてくるのは彼の嗚咽。

唇から紡がれようとした言葉は、喉の奥に滑り落ちる。



「…僕のせいなんだ、僕の。」



赤く染まる黄金の十字架。

その下に膝をついてうなだれているその背中が

ひどく頼りなく儚く思えて。



思わず扉を閉めようとした手に力が入った。




「…誰？」


ギシリと軋む、古びた扉が恨めしい。

ビクリと肩を震わせて振り向いた彼と目が合った。



「…水、香。」



喉から絞り出したような声で
彼が私を呼ぶ。



引き寄せられるように後ろ手に扉を閉めて

十字架の前に立ち尽くしている彼の元へ歩いていった。



「…藤也？」

彼の表情は逆光になって見えない。

「何泣いて…」


ふわりと彼の香りが広がる。
視界が暗く覆われて、

息遣いが耳元で響いた。


「…ごめん。」


抱き締められたのだと認識できずに

そのまま体を預けていれば、

微かに震えている彼に気付いて。



「藤也…。」

「ごめん、ごめん水香。」






それは二年前のクリスマス。



私がバレエを踊れなくなって

お菓子の国から追放された冬。




「…僕が、僕が水香の代わりになればよかった。」




そしてあの人が

私を愛してくれた冬。




「…僕が、水香の夢を壊した。」




あの日以来 あなたはきっと

罪を背負って生きてきたんだね。




「ごめん、ごめん…!」


あなたのせいじゃない。

あなたが悪いんじゃない。





「…そうだね。」

口から滑り出たのは、嘘。



感謝、してるんだ。


「藤也が悪いんだよ。」


だってあなたは

私自身を支えてくれた
私自身を愛してくれた
私自身を見てくれた


「全部全部、藤也のせい。」



見なくても分かる。

頭上で、あなたが絶望に目を見開くその表情。




「藤也が私から全部を奪ったの。」



違う ちがうチガウ違う

こんなことが言いたいんじゃない


「…だからね、藤也。」


震えてるその肩を抱き締めて

あなたのせいじゃないよ って
自分を責めないで って


言いたいだけなのに。



「ちゃんとその罪、償って？」



これからも私の道化でいてね。

ずっと私の側で
私から離れないで

私があの冬を忘れるまで



「私を笑わせ続けてよ。」




いつもみたいに馬鹿なこと言いながら
私の側で笑ってて。




「…水香。」




絶望してくれていいよ。

こんな私に。

見捨ててくれていいよ

こんな私を。



今ここで私を突き飛ばしてくれたら

私はもう二度と あなたに会わないから。




「許して、くれるの…？」




頭上で響いたのは優しい声音。

あなたは笑っていた。




「そばに居て、いいんだね？」




言葉をなくす私に

あなたの微笑みが痛かった。