∫キャンディーケーキは雪の中∫

雪が降ってた。

白い白い 牡丹雪。



それはちょうど

水香が踊り始めたころに降り出したんだっけ。


「おつかれ、水香。」

「ありがとう。」



その前の年まで金平糖役は紗香さん。

水香はずっとクララ役。



でもその年は紗香さんが
バレエ留学のためにイギリスへ発つから

水香が急遽、金平糖に抜擢されたんだよね。



綺麗だったよ、

紗香さんに負けないくらい。


ずっと ずっと

綺麗だった。




「あれ？」

舞台メイクを落とすこともなく、

白いニットワンピースに着替えた彼女がスタジオを出ていくのを
引き止めたのは僕。


「どこ行くの、水香。」

「お従姉ちゃんの見送り。」

ブーツを履きながら彼女が答える。


「紗香さん…今日、イギリス行くの？」

「そうだよ。」

「…僕も行くよ。」



嫌な予感がしてたんだ、

なんとなく。



一人で行かせるのが不安で
僕も一緒にスタジオを出た。


「すごーい、雪だ!」

隣ではしゃぐ君に
僕も嬉しくなって。

「みーずか、」
「何…っきゃっ!」

道路端に積もった雪を彼女の首筋に押し当てたりなんかして。

「やったなぁっ藤也!」
「ぅわっ…冷たっ!」

二人で馬鹿みたいに笑いながら、

バス停に向かってた。